くうねるだす

信州大学4回生の自然派ブロガー。 おいしいものがすき。おさけも少々。

真冬の浅間山登山でウンコしてたら凍傷になった話

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未だかつて、命がけでウンコをしたことがあっただろうか。
2017年2月12日、厳冬期の浅間山。ソロ登山。僕は登山道から少し外れた木々に紛れて、ウンコをしていた。
 
その時は別の意味で必死だったが、後になって安全性という観点から考えると、あれはかなりヤバいウンコだった。命がけというのは大袈裟かもしれないが、僕はそのとき、ウンコと引き換えに指を1本失うところだった。

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冬山登山中に下痢に襲われる 

山でウンコをするという行為自体があまりイケてないし、これが物議を醸していることも理解している(たとえば世界最高峰のエベレストは登山者のウンコだらけ、というのは有名な話だ)。
 
でも結論から言うと、黒斑山(浅間山を囲む外環山の1つ。噴火警戒のため2017年3月現在、浅間山登山は外環山までに規制されている)の中腹で不意に襲ってきた下痢由来の便意に、僕は勝つことができなかった。軽くラッセルして登山道から外れ、バックパックを下ろして体勢を整える。それがそのとき僕にできる精一杯だった。
 
そうなったら、できる限り速やかに済ませること、そこに全神経を集中させる。たかがウンコとはいえ、ここは厳冬期の活火山、標高2000m。周囲は股下までの雪、外気温は軽く-10度を下回る。加えて吹きつける冷風が容赦なく体温を奪う。時間がかかるほど凍傷や低体温症のリスクは高まるのだ。
 
事を済まして手近にあったウエットティッシュで処理し、ついでにアイゼンもつけて登山道に戻った。その間、5-10分。冷え切った身体を温めようと、ペースを上げて登山を再開する。
 

凍傷、そして撤退 

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少し登って身体が温まってきた。だけど、手は相変わらず冷たかった。そのうちに、なにかの拍子で右手が左手に触れた。…硬い。
 
冬山登山はもちろん、スキーやスノーボードをしたことがある人なら分かるだろう、冬山では手袋が凍って硬くなることが度々ある。でも今回は、手袋の表面が凍ったわけではなかった。僕はその硬さに違和感を感じ取った。
 
無機質な硬さ。おかしい。
 
手袋を外す。
 
手が、左手の小指が凍っていた。
そのときの僕の左手の小指は、指全体が真っ白で氷みたいに冷たかった。死の匂いがした。
 
あぁヤバい、凍傷だ。
 
すぐに分かった。
 
指を1本失うことになるかもしれない。
 
そう思った瞬間、息は上がり、心臓がバクバクいい始めた。身体が必死に血を巡らせて、生き延びようとしているみたいだった。
 
僕もなりふり構わず小指を温めた。手袋を外した左手を首筋に当てて暖をとる。体温を上げようと、斜面を登った。後から考えると不思議で仕方ないが、このとき僕の頭には撤退という考えは微塵もなかった。ただ身体を温めなければという一心で登っていた。
 
そのうちに小指が少し生き返った。まだ冷たいが、さっきの硬さはなく、ただの冷えた指に戻っていた。そのときになって、痛みがきた。指全体が内側から悲鳴をあげるような痛み。今までに経験したことのないものだった。
これがもう一回冷えたら本当にヤバい。それだけは本能的に分かった。
 
山を降りよう。そう思った。
 
風は強いけど澄み切った空と太陽の良好なコンディション。登山開始からわずか90分。こんな日に、こんなところで引き返すのは正直言ってとても悔しかったけど、僕は浅間山を後にした。
 
下山中にどんどん指の痛みは強くなって、車坂峠に戻った頃には指を曲げられないほどパンパンに腫れ上がっていた。幸い山の麓に病院があって、僕はそこに向かった。

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僕がやらかした冬山登山のタブー

僕は今回、冬山登山のタブーとされる行動をいくつかとっていた。
 
まずひとつめに、素肌を外気に晒したこと。ウンコするときはお尻はもちろん、手袋も外していた(とはいえ素肌を出さずにウンコなんてできない気もする)。
 
問題はその時間である。先日クレイジージャーニーに出演したアルピニスト、平出さんは「5秒でウンコできる」と仰っていたそうだ。それに比べて5分という時間はあまりにも長く、指が冷え切るには十分すぎた。
 
ふたつめに、素肌を濡らしたこと。
冬山登山で肌が濡れると水分が凍り、凍傷に至る。もちろんそんなことは分かっていた。けれど、思えばウンコ中は斜面を滑り落ちないように雪のついた木に手を添えていたし、キレイキレイでお尻も手も拭いていた(普段登山中に持ち歩くトイレットペーパーは置いてきていた)。
 
結果的に指は失わずに済んだが、下痢という非常事態に素早く適切に対処できなかったこと、もっと言えば「多少なら問題ないだろう」という意識がこんな事態を招いたのだった。
 

凍傷の怖さは「危機に気づけない」こと

凍傷のリスクは頭では分かっていた。でも、それでも、こうやっていざ自分がその状況を経験するまで、何が危ないのかイマイチ分かっていなかった。
 
でも、今なら分かる。
 
「危機に気づけないこと」それこそが凍傷の怖さだった。
例えば、上にあげた雪山のタブーとされる行為もわずかであれば問題はない(厳密に守ろうとしたら登山なんてできない)。そして冬山では、指先が冷たいことなんて日常茶飯事で全く気にも留めない。どのラインを超えるとヤバいのか、という肝心なことは、後で凍傷になって初めて分かるのだ。
 
僕は「たまたま」登山中に左手に触れたことで凍傷に気づいただけで、もしあのとき手が触れなければ、もし違和感に気づくのが数十分遅れていれば、僕の左手の小指は今ここでキーボードを叩いていなかっただろう。
正直にいうと、あのタイミングで気づけたのは偶然以外の何物でもなかった。
  
「登山は想像力のスポーツ」とプロ登山家の竹内さんは仰っているが、事が起きる前に「今はいいけど、これがこうなったらヤバいかもしれない」とイメージし準備できるかどうか。それが冬山で事故を起こさないために必要な能力なんだと実感した。
 

まとめ

下山して病院に行ったが、幸い軽度の凍傷で特に処置もせずに済んだ。半月経ったいまでも小指の感覚は微妙に変だが、日々少しずつ回復してきている。
 
凍傷になった指をなりふり構わず温めようとしていたあのとき、僕は自分の指を失わずに済むなら、1着2万円のインナーも躊躇わずに買える、そう思った。
冬山装備は妥協しないというのが僕のポリシーだが、改めてその思いを強くすることとなった。
 
浅間山は登山としては全く難しくなく、むしろ雪山登山の入門の山である。ただ、そんな山でさえ、必要な装備と知識、そして行動が伴わないと命の危険がつきまとう。
 
特に僕を含めた若い年齢層のハイカーは、体力と勢いだけで山に入ってしまうことが多い。だからこそ、事故のリアルをこうして記事にすることで、登山の安全性を再考するきっかけになれたら嬉しい。それでは。
 
written by 南 蒼樹.