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くうねるだす

信州大学4回生の自然派ブロガー。 おいしいものがすき。おさけも少々。

深夜の長野駅にいた不審すぎる男の話

旅行 旅行-長野 旅行-国内
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なんだこれは

 
 
深夜1時、ぼくは長野駅で立ち尽くした。
 
 
なんということだ
 
 
愛すべきママチャリが、ぼくの目の前でくたばっていた

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家まであと15分だというのに、こんなことがあっていいのか
 
思えば今日は散々だ 
朝からバスに乗り遅れそうになり契約に必要な判子がなくて走り回り鳥貴族は満席で断られそのうえここにきてチャリがご臨終とは
 
そもそも事の始まりは鳥貴族に振られて階下の塚田農場で飲んでいたときのことだ
 
風邪で死にかけているW辺と、卒論が終わらなくて死にかけているぼくは積もる話をするうちに、時間ギリギリで動くのをそろそろ改善しなければという結論に至った。
 
新社会人として当然のことだ。
 
ぼくは予定よりも30秒早く席を立ち、5分前にはバス停の待合室に腰掛けて、そこからバスが来るのを優雅に眺めるという、いつものタイムマネジメントからは想像もできないような光景の中に立っていた。
 
 
はずだった。
 
 
店を後にしてふと時計を見るとバスの出発時刻ジャスト。
 
ぼくは走った。
なぜなら遅刻魔のぼくの時計は3分進んでるからだ
 
新宿の人の波をかき分ける。
 
いつか習った「超高速連続お辞儀」の応用版「超高速連続すみません」を駆使して雑踏を最短ルートで通り抜け
信号は超高速連続首振りで乗り切り
階段を超高速連続交互ケンケンで置き去りにした
 
ぼくは、夜の新宿を駆け抜けた。
1秒でも遅れたらバス代の2000円がチャラだ、秒速2000円の男だ
 
もう、目指す場所はすぐそこだ。
 
息が苦しい。
いやもはや苦しいとかいうレベルはこえた。
 
ハイだ。
これがランナーズハイとかいうやつか。
 
ゼーハー言いながら最後の階段を登りきり目標を探す。
 が、そこにいるはずのアイツがいない
 
 
なんだこれは
 
 
20時、ぼくはバス停で立ち尽くした。
 
 
なんということだ
 
 
乗る予定のピンクのバスは、ぼくの目の前で夜の東京の街に消えていった
たかが15秒の遅刻なのに、こんなことがあっていいのか
 
あざ笑うかのように夜の闇に消えていくバスのケツを見送りながら秒速2000円の男は敗北を悟った。
 
 
そして5時間後、ぼくは今度は駅で立ち尽くしていた。そう、例のチャリである。
誰にでも分かるように要点だけかいつまんで説明すると、つまりこういうことになる。 
 
寒すぎて駅に停めておいたチャリの鍵穴が凍りつき、鍵が開けられなくて動かせなくなった。
 
寒くて凍る。実にシンプルだ。
 
地球の活動によって何万年もかけて地面が盛り上がってできた独特な地形に囲まれ、本来人が生きながらえることのできない過酷な長野の地において、ヒトに活力を与える熱くて黄色くて偉大なる星が見えなくなる頃から急激に進行する自然現象、つまり日常茶飯事なのだこれは
 
鍵を刺しても抜いても、押しても引いても、曲げても伸ばしても、ソイツは一向に動くそぶりを見せなかった。
 
つい先日「車の鍵穴が凍ったらライターで鍵を炙って開けろ」と書いたのが思い出される。(参照:スノーボーダーが"滑らない"雪道の運転のコツをまとめてみた - くうねるだす

 

 

ライターだと…
 
この山の上で、嫌な臭いのするオトナ向け葉っぱロールを嗜むことのないぼくが、ましてや深夜1時に、人類最高の発明をモバイルにしたかつてない文明の利器を入手することなどはまず不可能だった。
 
凍結ということはつまり、凍って固まってるということだ
 
なるほど
 
この、我々の体内の大半を占め最も大切といわれる命の液体が、目の前に、いや目の前のチャリの鍵穴の中に、状態変化してあらぬ姿になっていらっしゃるということだ
 
溶かせばいい
 
実に単純なことだ
 
息を吹きかけてみる
 
そう、ぼくはチャリの鍵穴をフーフーしたのだ。長野駅の防犯カメラに深夜1時に写りこんだ、フーフーするものを明らかに取り違えてる風の男はほぼ間違いなくぼくだ。
 
その男は、しばらくフーフーした後にはたとフーフーを辞めた。
 
どうやら気付いたらしい。
明らかに挙動が不審である、と。
 
だが実際は違う。
ぼくはもっと根本的な問題に気付いたのだ。
 
地球上の生きとし生けるものすべての生命の根源にある類い稀な液体は、自分のフーフーのなかにさえ含まれていらっしゃる。
 
すなわち、フーフーすればするほど、その偉大なる液体は山の国の尋常ではない冷気によってあらぬ形へと姿を変える。ヒトはそれを氷と呼ぶ
 
そうなのだ
 
ぼくは溶かしているつもりになって、全力で鍵穴を凍らせていたのだ
 
けしからん
 
 
石で鍵穴を叩いてみる
 
鍵穴を叩けば氷は割れるのだ。
かつて先祖がマンモスを仕留めたのも同じ石だ。ぼくはよりによって先祖代々受け継がれる自然の力に助けを求めたのだ
 
たとえ一瞬であっても、自然の力に人間ごときの発明が役に立つと考えたぼくがバカだった。自然の力に打ち勝つには自然の力で対抗するしかないのだ
 
石よ
 
開けたまへ
 
長野駅の防犯カメラに深夜1時に写りこんだ、原始人のごとく石を巧みに扱い、鍵穴に石をぶつけている風の男はほぼ間違いなくぼくだ。
 
その男はひとしきり叩いた後、叩くのを辞めた。
 
そう、開かなかったのだ。
人類の最高の発明をもってしても、自然の力をもってしても、その鍵はビクともしなかった。
 
なんという鍵なんだ。尋常ではない
 
鍵というモノに求められる、決して開かないという概念をこれほどまでに完全に具現化したものがあろうか。これさえあれば、相手がどんな錠前破りのプロだろうとどんなマッチョマンだろうとどんなマウンテンゴリラだろうと決して開くことなく何かを守ることができるのだ
 
もちろん自分も開けることはできない
 
だがそれでこそ鍵
 
人の技と自然の力の織りなす驚異の鍵を目の前に、ぼくはなす術もなくただただ立ち尽くした。
 
 
 
なす術がない
 
ヒトはそんな時空を見上げる
 
そうぼくも例外なく空を見上げた
 
 
 
そしてふと横を見た
 
 
そこに静かに佇んでいたのははまごうことなきぼくの自転車すなわちマイチャリであった
 
チャリの鍵を差し込んで回してみる
 
何事もなかったかのように鍵は開く
 
なんだ
 
ぼくは何をしていたんだ。
 
夜の新宿を駆け抜けたものの乗るはずのバスに置いていかれ、その日の飲み代すらも凌駕する額のお金をかけて新しくバスをとり、誰のものかも分からないチャリの鍵にフーフーし、その辺に落ちていた石でガンガン叩いて、完全なる鍵の降臨を賞賛していた
 
なんたる失態
 
土曜日の夜にそんなことをしていたのはぼくです
隣のチャリの人まことに申し訳ありませんでしたあああ!!!