くうねるだす

Exploring My Nature

登山のファーストエイドを学びにWFAに参加してきた

登山をするうえで、以前から不安に思っていたことがある。それは「もし登山中に事故があったらどうしよう」という不安だ。
 
ファーストエイドキットは持っているし、ザックリとした知識はある。それでも、「いざ事故の現場に遭遇したら何かできるか」と聞かれると、首をかしげてしまう。
 
そんな状態を脱するべく、スリップストリームの主催する野外救命救急講習(Wilderness First Aid、以下WFA)の「基本の50時間コース」を受けてきた。
 

都市救急と野外救急の違い

救命救急の講習はよく開催されていて、1-2日で気軽に参加できる(僕も何度か受講している)。だけど、都市部と野外では前提とされている状況が決定的に違う。
 

都市部(田舎も含めた生活圏)での救急

・どこでも通信でき、救助要請をすることができる
・1時間以内に医療機関に引き渡せる
・水や必要物資がすぐに手に入る
 

野外(例えば登山道)での救急

・救助を呼ぶための通信ができるか分からない
・医療機関に引き渡すまでに数時間〜数日間かかる
・その場であるもので対応するしかない(水も自由に手に入らない)
 
前提がこれだけ違うため、そこで求められるスキルや対応もまったく違ってくる。都市部での救急では、登山のリスクマネジメントとしては不十分だ。
 
 

ウィルダネスファーストエイドを受講したきっかけ

そもそもこの講習を知ったのは、ガイドの友人に強烈におすすめされたからだった。野外救急専門の講習会があることを知って驚き、さらにその本格的な内容にもビックリした。
 
存在を知ったときから「これは受けるべき講習だ」と直感してはいたけれど、さらにその思いを強くする出来事があった。
 

ソロ登山での事故に備えたい

僕は単独での登山が好きで、山に入ってから何日も他のハイカーに会わないこともある。そんな状況に身を置くなかで、「致命傷でなくても、何かあったらヤバい」という危機感を感じるようになっていた。
 
一人でできることは少ないかもしれないけれど、知識と技術があれば軽い怪我くらいなら対処できるはず。特に、台湾でソロ縦走をしたとき(南湖大山を抜けた後の北一段縦走コース:GWの台湾で南湖大山・中央尖山を登山する旅)には「転んだら死ぬ」と思いながら歩いていた。
 

急性アルコール中毒を目撃した

講習の直前、奥多摩でキャンプをしていたのだけれど、そこで彼女が急性アルコール中毒になってしまった。過呼吸、嘔吐、判断力の低下といった症状を前にして本当に焦ったし、ものすごい無力感に襲われた。
 
救急車を呼ぶべきなのかも判断できず、彼女を危険な状態にさらしてしまったことを反省すると同時に、「もし何かあっても、なんとかできるスキルを一刻も早く身につけよう」と強く感じた。
 

△講習後のツイート。これを知っていれば二日酔いにはバッチリ対応できたはず。
 

WFA講習の様子 

国際自然環境アウトドア専門学校の標識

△講習会場となったinac 国際自然環境アウトドア専門学校(妙高・新潟県)。妙高山の麓に位置し、屋内には巨大なクライミングウォールを備えた贅沢な環境。
 
WFAの特徴的なポイントは3つ。
・アウトドア界で活躍するメンバー
・50時間でも足りないボリューム
・実際の事故現場をシミュレーションするシナリオ
 

アウトドアの第一線で活躍するメンバー

WFAはinacの学生の必修科目になっていて、メンバー18人中15人が学生だった。
 
ひとくちに学生といっても、年齢もバックグラウンドも人それぞれ。登山ガイドや自然ガイド、そしてクライマーなど、アウトドアを愛する学生が全国から集っている。
 
僕以外の一般参加者は小笠原諸島のレンジャーと白川郷の職員さん。実際にアウトドアの第一線で活躍する方々と仲良くなったり、情報を得られることもWFAの大きな価値だと感じた。
 
今回はinacでの開催だったため学生が主体だったけれど、他の場所での講習会ではメンバーのほぼ全員が一般参加者になると聞いた。
 

ゼロベースで包帯の巻き方から学ぶ

登山用具を使って担架をつくる

△担架搬送の実技で、担架を作っているところ

 

WFAを受講するうえで、事前にオンライン公開されている医学書の予習が求められた。予習といってもその量は数百ページに及ぶ(僕は途中で断念した)。
 
朝8時(2日目から7時40分に)から講習がスタートし、終了は18時頃と、1日10時間のスケジュールだ。
 
座学では予習をベースに、重要なポイントについて情報を補っていく。はじめのうちは板書していたけれど、そのうちに時間がなくなってきて、後半は講師が話すことを片っ端からメモしていくスタイルに。
 
実技では包帯の巻き方から三角巾の使い方、スプリント(添え木)の作り方や固定の方法など、実際に手を動かしながら学んでいく。
 
説明は基本的に一度のみで、協力し合って忘れていた部分を補い合うことが求められる。早く終わった人に合わせてどんどん進むので、必死で講習についていく過程で必然的に他のメンバーと打ち解けていく。
 
息をつく間も無く10時間が過ぎ、放課後は実技のキャッチアップ、宿では宿題に加えてその日に学んだことを復習。結局1日13時間くらいは勉強していたと思う。
 

 

実際の事故を想定した「シナリオ」

そして、WFA最大の特徴は、実際に事故に遭遇した状況を詳細に設定したうえで救助する「シナリオ」。
 
傷病者役は設定した状況(例えば槍ヶ岳の山頂直下での7月のガイドツアーなど)に基づいて演技し、時には血のりやゲロ(っぽく見えるもの)まで使って、痛みや体の不調を訴える(時には意識がないことも)。
 
救助者は、傷病者の怪我や疾患をチェックしたうえでどんな処置が必要なのか判断しながら手当していく。さらに、設定状況に合わせて医療機関までの搬送プランを組み立て、「傷病者を救う」ための具体的なプロセスを実践する。
 
座学や実技で勉強してはいても、実際に痛がる傷病者を目の前にすると頭が真っ白になったり、「本当にこれでいいんだっけ?」と不安になったりする。でも、助けてくれるのは自分がそれまで学んできた知識と技術だけ。そんな状況に自分を追い込むことで、少しずつ冷静に処置できるようになっていく。
 
幸いなことに5日間を通じて好天に恵まれ(講師は雨の方が練習になるから残念がっていた)、最終日に筆記と実技のテストがあってWFAは幕を閉じた。
 

ファーストエイド講習を受けて感じたこと

今回の講習で得たものは色々とあるけれど、何よりも大きな収穫はファーストエイドへの「リアルな」自信がついたことだ。
 
講習前は三角巾の使い方さえ知らなかったのに、今では基本的な怪我には対処できる自信があるし、人を搬送するための現実的な退避計画も立てられるようになった(傷病者1人を担架搬送するには6人はいないと厳しい、など)。
 

 
もちろんこういう技術は使わないで済むのが一番だけど、もし万が一そういう事態に直面しても、適切に対処できるように準備しておく、というのはリスクマネジメントとして必要なことだと思う。
 
そして、今回感じたのは、「1日13時間にも及ぶ講習が全然つらくない、むしろ楽しい」という不思議な感覚。純粋に、登山に関して自分ができることが増えていく毎日がすごく楽しい、そんな充実した5日間だった。
 

スリップストリームのWFA講習について

最後に、今回参加したWFA講習の情報をまとめておこう。
 
主催:スリップストリームジャパン
コース:基本の50時間コース5日間(9日間の高度な90時間コースもある)
開催地:妙高、ニセコ、みなかみ、鳥取など
開催時期:不定期
費用:約7万円(保険代込み、移動費・宿泊費・食費別)
リフレッシュ制度:受講後1年間は講習料無料で再受講できる(一部のみ参加なども可能)
 

まとめ:ファーストエイド技術は自分でできるリスクマネジメント

 

ファーストエイドは、ロープワークやパッキングと同じように、登山におけるテクニックのひとつ。別に「誰かを助けたい」という気持ちがなくても、自分の登山のリスクマネジメントとして、身につけておくことを強くおすすめしたい。
 
また、今回のWFA講習で学んだことはツイッターにて「#WFA妙高」のタグでツイートしているので、興味がある方はチェックしてみてほしい。
 
written by 南蒼樹(@Sight50Sky).